安全なはずのものが実は病気と関係する、に学ぶ~品質管理のすべきこと~

皆さんこんにちは!小橋博士です。

有名な科学雑誌の一つ、natureのオンライン版にトレハロースがC.difficileの毒性を高める可能性を示唆する論文が発表されました。トレハロースは天然に存在する化合物であり、安全性が高いと考えられていた食品添加物です。この論文は、食品すべてに共通する新しいリスクを示しています。このリスクに対して、品質管理担当者は何をすべきなのでしょうか?本記事ではリスクの詳細と対策を簡単にまとめていきます。

論文の概略

論文では、C.difficileによる感染症の流行とトレハロースの低価格化実現と使用量の増加時期が重なることを挙げています。実験事実として、強毒株(C.difficileにも複数の品種があります)は低濃度のトレハロースでも利用できるような遺伝子に変わっていたことを示しています。

マウスによる実験では、強毒株の毒性はトレハロースを含む餌を与えた時に強まることなども同時に示されています。

ここで、注意して頂きたいのは、
・毒素生産とトレハロースの直接的な関係はまだ示されていないこと
・直接的な関係性が示されない限り「たまたまそう見えた」という可能性が否定できないこと
です。

トレハロースがないと毒性を発揮しないということは、腸内で増えることと毒性には直接の因果関係はないと考えられます。
なので、トレハロースの代謝産物が毒素生産を誘発している可能性が考えられます。
また、微量のはずのトレハロースで腸内での増殖が確認可能なレベルになることから、もしかしたら新しい抗生物質の開発につながるかもしれません。
完全に余談ですが(笑)

示されたリスク

今回の論文をシンプルに考えると以下の通りになります。
これまでの食経験とは違うレベルで特定の化合物を食べることで、未知の細菌が毒素を生産する可能性がある、ということです。

トマトで有名になったリコピンや、ダイエットにいいかも?と言われている希少糖、新開発の香料、もちろん新しい食品添加物も、ある日突然降ってわいた細菌によって毒素に変えられるかもしれない、ということです。

リスクアセスメントでは可能性と重大性を考えますが、上記のリスクは発生可能性は非常に低いと考えられます。よって、発生すれば重大であっても現時点で対策が必要なリスクではないでしょう。しかし、一度細菌の変異が起こって毒性を引き起こすようになれば、発生可能性は変化します。

似たような例として、AIDSや多剤耐性菌の発生が挙げられます。
病気がなかった(もしくは広まっていなかった)時代には気を付ける必要もなかったことでも、広がってしまえば対策必須に変わります。

品質管理担当者のすべきこと

多くの品質管理担当者にとって、トレハロースの件は無関係に思えるかもしれません。しかし、上記のように考えてみると、特定の食品添加物やスーパーフードなどを原材料にしているならば、無関係とは言い切れません。

しかし、そのために科学論文を読み漁るのもしんどい限りです。

今の世の中、いろいろな方が解説ブログを記載してくれています。現実的な対策としては、自社で使用している食品添加物や通常より強化している栄養素などをグーグルアラートなどに登録して、こまめにチェックしていくことが最善かと思われます。

こんな長文で結論はそれだけか!?という感じですが、情報収集はやっぱり大事でしたね、ということです!
もし品質管理担当者で本事案をここで初めて見たよ!とか、1月中に発見できなかった!というような方は情報収集の方法を見直してみてはいかがでしょうか?

以上、小橋博士でした!